はじめに
PHS(Personal Handy-phone System)という方式の携帯電話サービスが、令和3年(2021年)1月末に、終わろうとしています。
※「PHSは携帯電話とは別物」と語られることもありますが、PHSも携帯電話も「携帯できる電話」ということで、この記事ではひとくくりにします
※終了するのは公衆PHSサービスなだけで、自営PHSは引き続き使えるので、「PHSが終わる」ではなく「PHSの携帯電話サービスが終わる」と表現しています
PHSのメリットは「高音質」「(当時としては)高速通信」「低消費電力」「低コスト」など、いろいろありました。
ここでは「高音質」に的を絞って、PHSを記録したいと思います。
PHSって
1995年にサービスを開始した、携帯電話サービスです。
おぉっと、26年前か…。
軽く当時の携帯電話事情を振り返ると、
- スマートフォン(iPhone, Android)なんて影も形もない
- i-mode, EZweb, J-Skyのようなインターネットサービスもまだ無い
- メールサービスすらまだ無い
- LTE、FOMA、cdmaOne方式での携帯電話サービスもまだ始まる前
- ウサギの耳が11桁になるよりも前(参考:https://www.youtube.com/watch?v=PQEI-bfGz6g )
- NTTドコモが、1993年にデジタルムーバという愛称で、PDC方式によるサービスを開始したころ
- ほかの各社も、PDC方式のサービスを提供開始したか、開始前くらい
- PDC方式では、音声の伝送速度は11.2kbps(データ通信は9.6kbps)
- 無線通信が大変混雑していたので、音声データを半減(5.6kbps)した「ハーフレート」も導入してた
という感じ。
ハーフレートなんて、人の声には遠すぎて、ほんとひどかったですね。
それだけ「外出中に電話したい」という需要が多くて、それを賄うだけの供給(無線通信の容量)が足りてない、という時代でした。
そしてPHSの「高音質」。PHSは音声データを32kbpsで伝送するので、当時のPDC方式と比べるとはるかに高音質でした。
なぜそんなことができたのかは、またいずれ…?
3Gとの音を比較したよ
そんなPHSの音質を他と比べてみました。
ただPHSとほぼ同期であるPDC方式は、2012年までに終了しているので、今回はPDCとPHSとは比べることができず。
代わりに今回は、3G(W-CDMA)との比較を行いました。
ちなみにW-CDMAの登場は、2001年。PHSよりも6年後輩になります。
以下の構成で録音を行いました。
MP3プレイヤーからの音を、電話回線を経由してパソコンで録音してみました。比較用に、MP3プレイヤーとパソコンを直接繋いだものも録音してます。
使用機材
- 録音機材:DELL ノートPC + Audacity
- 音源:ソニー ICD-PX240(ソニー ICレコーダー 4GB 単4電池対応 ICD-PX240)
- 3G端末:iPhone SE2(ワイモバイル回線) → XPERIA XZ Premium(ソフトバンク回線)
- PHS端末:京セラ WX12K → エイビット イエデンワ2
- ケーブル
- エレコム AV-35AD02BK(通常の3極 ⇔ イヤホンマイクの4極に変換する)(エレコム オーディオ変換ケーブル (3極メス×2-4極オス) 3.5mm【ヘッドセットをPCで使用するための変換ケーブル】 AV-35AD02BK)
- アップル Lightning - 3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ(iPhoneのLightning端子にイヤホンマイクを接続する)(Apple Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ)
- 京セラ イヤホン変換ケーブル(WX12KのUSB端子にイヤホンマイクを接続する)(https://contact.kyocera.co.jp/inquiry/ja/phsoption_wx12k/input.html)
- 自作のRJ-9 - 3.5mmオーディオケーブル変換ケーブル(イエデンワ2の受話器用端子から、パソコンに接続する)
iPhoneSE2、XPERIA XZ Premiumは、ともに4G&VoLTEに対応していますが、3Gで通話したいので、スマホ側でVoLTEを無効にした状態にしています。
ここでの3Gは、ソフトバンクの3G回線なので、つまりは W-CDMA ですね。
それぞれの端末からは、3.5mmオーディオケーブルに変換するアダプターを使用しました。
USB⇔イヤホンマイクの変換ケーブルは、家電量販店とかでも入手できますが、マイク使用不可な製品もあるので、要注意です。
ちなみにイエデンワ2には、オーディオケーブルを接続する端子が無いので、受話器とつながる端子(RJ-9)に刺さるケーブルを自作しました。
①ナレーション編
動画を公開しています。
- ナレーションのみ
- ナレーション+小鳥のさえずり
- ナレーション+滝の音
- ナレーション+街の音
の4つのケースで、各々3つのパターンで録音したものを、順に再生します。
音源(MP3プレイヤーの音を録音したもの)
↓
3G(3G回線を経由した音を録音したもの)
↓
PHS(PHS回線を経由した音を以下略)
で、それぞれの「音の大きさ」と「周波数分布(どんな音が含まれているか)」が視覚的に捉えられるように、グラフを撮影しました。
再生できなかったら、こちら↓
【音量調整版】PHSとケータイの音質比較 ①ナレーション編 - ニコニコ動画
とりあえず、一通り聞いてみてくださいな。
ヘッドフォン推奨です。(音量に気を付けてください)
今回の音声データは、以下のものを利用させていただきました。
- 効果音ラボ
- VSQ 著作権フリー効果音
以上終了。
なのですが、ここからは、「音」の知識ゼロな私による、個人の感想が並びますw
まずはナレーションのみで比較
動画を聞いたところ、
音源は、すごくはっきり聞こえて、丁寧に収録されたんだなぁと感じます。
3Gの音は、声がこもったような、詰まったような感じで聞こえます。そしてなんか機械的な、人工的な感じがします。でも何をしゃべっているかは分かります。
そしてPHSの音は、イエデンワ2の都合なのかノイズが乗ってるものの、3Gよりも自然な感じに聞こえます。
グラフを見てみますか。
全体としては、こんな感じ。
音の大きさに関しては、そんなに差がなさそう?
ということで、周波数分布見てみます。
「本日は」の部分の周波数分布が、こちら。
音源は、8kHzを超えて、広い範囲の音が含まれています。
3Gは、だいたい4kHzより高い音がカットされてますね。
なぜ人工的な感じがするのかは、グラフからは私ちょっと掴めないなぁ。
そしてPHSも、だいたい4kHzより高い音がカットされています。
あと、全体的に青みがかかっているので、ノイズが乗ってるということも視覚的によく分かりますw
ちなみに、この画像の冒頭のノイズが少ない部分は、MP3プレイヤーで音を鳴らす前の状態です。
あと、なんとなく3Gのグラフでは、横に細長い赤い部分が、PHSと比べても若干太くて繊細さに欠けるような?
3GもPHSも、4kHzより高い音が失われていますが、これは私の環境の問題ではなく、各通信方式の仕様みたいです。
だいたい4kHzの音まで伝えることができれば、会話する人の声としてはOKっぽいらしい。
ちなみに固定電話のデジタル回線であるISDNでは、
4kHzまでの音を伝える → サンプリング周波数8kHz
データの細かさ→ 8bit
となっているそうです。つまり
8bitのデータが8000個/秒 → 64kbps が必要
という計算になるので、ISDNの通信速度の基本が64kbpsだそうです。
ナレーション+小鳥のさえずり
ナレーションの音に、小鳥のさえずりを重ねたMP3データを作成して、試してみました。
(さっきと同じ動画ですが、途中から再生します)
3Gでも、小鳥のさえずりがよく聞こえます。が、人の声は、先ほどのに比べるとさらに音が詰まってるような、違和感があります。
PHSは、小鳥のさえずりも人の声も、高い音は出てないものの、割と自然に聞こえます。
全体のグラフは、こんな感じ。
点が並んでいますが、これが小鳥のさえずりですね。
あと音源を見ると、0~1.5kHzの範囲に青い帯が見えます。屋外で収録したものなので、周辺の環境音ですね。
3Gでは、小鳥のさえずりはうまく再現できていますが、環境音はカットされてますね。
PHSでは、低周波の青みが濃くなっているので、環境音を含んでいることを表します。
で、「ありがとうございます」の部分を拡大しました。
違いが目立つ部分として、黄緑色で囲んだ箇所と、赤色で囲んだ箇所があるようです。
黄緑色は、ナレーションの音声の部分で、3Gは少し欠けている・薄くなっているように感じます。
赤色はさえずり部分で、3Gでは余韻の部分が欠けています。途切れた感じしましたよね。
ナレーション+滝の音
ナレーションの音に滝の音を重ねたMP3データを作成して、試してみました。
(これも、途中から再生します)
音源のものは、録音側PCの都合で、人の声にノイズが乗ってしまい、すごくザワザワした感じになってしまいました(MP3プレイヤーの音を直接聞くと、そんなことないんですけどねぇ)。
うちのPC、ホワイトノイズのような音は、苦手なのかも。
3Gでは、滝の音が見事に消えています。冒頭2秒くらいは聞こえましたが、その後はノイズキャンセリングが働いたかのような、消え具合。その影響か、人の声は、こもった感じがします。
PHSは、相変わらずノイズ乗ってますが、滝の感じも聞こえてきます。人の声も、違和感なく聞ける気がします。
全体のグラフは、こんな感じ。
音源のグラフは、全体的に青色が広がってます。滝の音って、いろんな周波数の音を含んでいるのですね。
3Gは、差が歴然。最初の数秒間は滝の音っぽいものが聞こえますが、すぐにスーッと滝の音が消えてますね。そして、音がさらに詰まってる印象です。
PHSは、滝の音は伝えることができる感じですね。ノイズ乗りまくってるので、滝の音なのかノイズなのか、区別しづらいですがw
「本日は」の部分を拡大しました。
さらに「ナレーションのみ」と比較してみましょうか。
3Gは、人の声の成分が欠けているのが分かりますね。
一方のPHSでは、滝の音だけでなく、人の声も含まれているように見えます。
これが、「3Gだと人の声が聞き取りづらい」という現象のような気がします。
3Gでは、滝の音を消すついでに、人の声も一部消えているようです。周りが騒がしい状況では、3Gでは人の声が聞き取りづらいのだと思います。
ナレーション+街の音
これも、ナレーションに加えて、街の音を重ねてみました。
よくあるシチュエーションですよね。
(これまでと同じ動画で、途中から再生します)
音源:車が通りすぎる音、クラクション、自転車のブレーキ。横断歩道の誘導メロディが鳴ってるの、かすかに聞こえるかも。人の声の後ろにある車の音も、よく聞こえます。
3G:見事に街の音が消えています。代償として、人の声もこもっていますね。
PHS:街の音が伝わってきます。「いま外出中です」ということが分かる感じ。横断歩道の誘導メロディも、聞こえるかも。クラクションは、4kHzより高い音なのでかすかに含まれる程度。さすがに自転車のブレーキは、全く含まれてないですね。人の声も、違和感ない感じ。
全体のグラフはこんな感じ。
冒頭の街の音だけを拡大すると、こんな感じ。
黄緑色:車の通りすぎる音
赤色:クラクション
黄色:自転車のブレーキ
3Gにはいずれも全く含まれていないですが、PHSには車の走行音が確認できますし、クラクションもかすかに入ってますね。自転車のブレーキは7kHz付近なので、さすがのPHSでも全く含まれず。
「本日は」の部分を比較してみましょう。
3Gは、「滝の音」ほどひどくはありませんが、やはり原型が失われてる感じがしますね。
特に黄色と赤色で囲んだところ。3Gでは、「ナレーションのみ」とだいぶ違いがあるなぁという印象です。
まとめると
3Gは、「人の声」だけを伝えようとして、それ以外の音を消そうとしている。
なので周囲がうるさい状況では、相手の声は聞き取りづらそう。
PHSは、周囲の音を含めて「音」を伝えようとしていて、少なくとも自然に聞こえる。
という感じがします。
あと、ほかにも動画がありますが、その解説は別記事にて。
tokieng.hatenablog.com